習っているエッセイ講座で、お勧めの本を持ってきてくださる生徒さんがいる。
その方はもう八十歳を超えているそうだ。
我が親世代。しかし、文章を書かれる。外で人の会うことが好きな大変行動的な方だと思っている。
いつも教室にはスーツ姿でいらっしゃる。とてもダンディだ。
ご自身の書かれるエッセイは私の様にパソコンを使う訳でなく、原稿用紙にボールペンで書かれ、その端にはその時々挿絵を書かれている。とても味のある作風の方だ。
さて、その方が置かれていた本の中に、沼田真佑の『影裏』(えいり)があった。
沼田はこの最初の作品で第122回文學会新人賞をとり、その後この作品は芥川賞に輝いている。
短編で簡易な言葉で書かれているが、釣りのシーンなどは、実際に釣りをする人にとっては情景が浮かぶよう美しく書かれている。
東北の震災の後、行方不明になった友人を探すのだが、そこで自分の知らない友人の一部を垣間見ることになる。
「わたし」と書かれる主人公の性別が読み始めて暫くして分からなくなる場面がある。それは追っていくうちに分かるようになるのだが、分かってからは行方不明の友人に対する想いがどういうものなのか混とんとしてくる。
淡々と書かれているが、不思議と読み終わったあとにもう一度読み直してみようかと思わせるものがある。
これが初めての作品だというのはこれからどんなものを書かれるのか楽しみだ。
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