その本との出会いを思い出す時、はじめに決まった光景が浮かんできます。
窓からの逆光を受けて流れる塵、書架にひっそりと並ぶ児童書たち・・。
*「ドコカの国にようこそ!」という、題名に惹かれて手に取った一冊でした。
図書室の薄暗さと静けさが、挿絵の恐ろしさを倍増させました。内容は決して怖いものではないのです。主人公が数々の困難を乗り越えてドコカの国に行くというものです。
今回、再びこの本を借りてみました。つい嬉しくて、小学五年生の息子に言いました。
「ママが小さい頃読んだ怖くて不思議な本だよ、もしよかったら、読んでみて」
だけど近頃なまいきになりはじめている息子の返事は、
「ママが薦める本ってあんまり面白くないんだよ」
それなら別に薦めない、と言い残し夕飯の準備にとりかかりました。 暫くすると紙をめくる音が聞こえてきます。
「あぁ、やっぱりいつの世も、子供はこの絵に弱いんだ、どうしたって見てしまったら本を開かずにいられない」
そうして全部あっと言う間に読んでしまった息子は
「ママ、結局フトシ(この物語の主人公)はドコカの国に行ったまま帰って来ないんだね・・」
そうなのです、この物語の最後は、はっきりとしたハッピーエンドではないのです。そうして続けて
「でも最後にお母さんに会えたんだよね?」
どうして会えてしまったのかと不思議に思い、
「あら、そんなこと書いてあったかしら」
と尋ねると、
「『せっけんみたいに・・、マッチ箱みたいに・・』って書いてあるでしょう、フトシはきっと空から『お母さんだ』って見てたと思うんだ」
あぁ、これだから子供との会話は楽しいなぁと思いながら
「ねっ、案外面白かったでしょう」
と聞いてみました。案の定息子はこの不思議な話を気にいったそうです。
この挿絵を見てしまったら、誰だってフトシと一緒にドコカの国に行きたくなることでしょう。
*「ドコカの国にようこそ!」大海赫(おおうみ あかし)/童心社(現在廃版、復活ドットコムで復活本となっています)
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